厚生労働省が検討、介護と保育の資格を一本化。福祉施設の統合も

日本国内の高齢者は増加の一途をたどり、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となりますが、それに対し、介護職員の数は約30万人不足すると試算されています。
また、保育士の不足も続いていて、2017年には7万人が足りなくなるとの予測も。そのため、今後、とくに人口の少ない過疎地では、スタッフ不足で介護福祉施設や保育所などが運営できなくなり、閉鎖が相次ぐとみられています。
そこで厚生労働省は、この人手不足に対処するため「介護福祉士」と「保育士」の資格を一本化し、さらに、「介護施設」と「保育施設」も一つにまとめるべく検討をはじめました。福祉施設を統合し、そこに複数の分野をかけもちできる人材をおき、少人数のスタッフで専門的なサービスを提供できるよう、体制を整えるのが目的としています。

10の資格をもつフィンランドの「ラヒホイタヤ」

この資格を統一するというアイディアは、フィンランドで1990年から導入されている「ラヒホイタヤ」という資格にヒントを得たもの。
「ラヒホイタヤ」とは、保健医療部門における7つの資格(准看護婦・歯科助手・保育士・精神障害看護助手・ペディケア士・リハビリ助手・救急救命士/救急運転手)と、社会ケア部門における3つの資格(ホームヘルパー・知的障害福祉士・日中保育士)をひとつにまとめ、社会・保健医療の基礎資格としたものです。この資格は、各分野の中学卒業レベルの資格を統合していて、取得するためには3年間、1単位あたり40時間を120単位取ることが条件となっています。

フィンランドでは、高齢者からの要望として「いろいろなスタッフが出入りするのではなく、一人のスタッフに質の高いサービスを担当してほしい」との声が高く、このようなシステムが生まれました。
これにより、福祉の現場では、少人数のスタッフが状況に応じて柔軟に対応できるようになったということです。

メリットとデメリット

今回の資格一本化について厚労省は、雇用主、働き手の双方にメリットがあるとしています。
まず、雇う側にとっては、求人のたびに、必要な資格を持った人材を個別に募集しなくてもすむということ。そして働く側にも、一つの資格に限定して、当てはまる仕事だけを探すということがなくなる利点があります。
また、今後の少子化により、保育士が過剰になった場合も、介護の分野にシフトできることになり、将来的には雇用対策にもつながるとみているようです。

ただし、現場からは厳しい声も上がっているのが現状。
「保育と介護はまったく違う仕事内容。一人に求めるのは難しい」
「対応範囲が広すぎて、サービスの質が落ちる危険性がある」等、実際、保育と介護では、乳児・幼児への保育と高齢者へのケアということで、必要とされる知識も技術もまったく異なります。

また、新たに保育士または介護福祉士の資格をとるにしても、専門の施設や大学を卒業するか、厳しい受験資格をクリアして国家試験に合格しなくてはならず、その費用、時間を捻出する必要が出てきます。 さらに、全ての業務を担当するためには、幅広い知識と専門性が同時に求められ、そのような高い技能を持った人材をどうやって育成していくのかも検討する必要があります。

現場の声をくみ上げた施策を

    今回の改定の是非を問う前に、まず念頭に置かなくてはならないのは、現在の保育と介護の現場が抱えるさまざまな問題。業務の多さ、責任の重さ、にもかかわらず待遇面が充実していないことなど、これらの課題を残したまま、さらに現場の負担を増やすようなことになってはならないでしょう。

    厚労省は五月中に、具体的な施策をまとめる方針です。こうした現場の状況をよく把握して、現実的なプランを示すことが求められています。

    • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ページ上部へ戻る