高齢者の健康を底上げする「口腔ケア」の必要性

若い時に比べ、高齢者の体力や抵抗力が弱っていくのは仕方のないこと。
そこを補うために、食事や運動、趣味などを充実させ、生き生きと暮らす方は多くいます。
ところが、そんな人たちでも意外に軽視しがちなのがお口のケア。
とくに抵抗力の落ちた高齢者の場合、口腔内の細菌は、さまざまな病気の引き金になることがわかっており、適切な口腔ケアは健康維持には欠かせないものなのです。
しかし病気や障がいなどで、自分でケアできないケースも多く、いま、高齢者の口腔ケアの大切さが見直されています。
そこで今回は、その必要性とメリットについて、詳しくみていくことにしましょう。

口腔機能の低下のサインとは

高齢者の日常を観察していくと、次のような症状がよくみられます。

●食べこぼしをする
●むせる
●口が乾く
●口臭がある
●会話をしない、人と関わらない
●無表情、笑わない
●転びやすい

これらはみんな、口腔機能が低下しているサインでもあることをご存知でしたか。
そして、高齢者は口の中にも特徴があります。

●詰め物・被せ物などの治療痕や、入れ歯が多い
●汚れや細菌を洗い流す、自浄作用が働いていない
●虫歯や歯周病、粘膜の病変が増える
●唾液が減り、口内が乾燥して、噛む・飲み込む・発声することがスムーズにできない

このような状態で、適切な口腔ケアがなされていないと、口の中だけでなく、さまざまなトラブルがやがて全身に及んできます。

口腔ケアのふたつの役割

口腔ケアには、口内を清潔にする「器質的口腔ケア」と、口の機能を回復させる「機能的口腔ケア」があり、どちらも高齢者の健康には欠かせません。
正しい方法で口内の汚れを取り除き、口の運動やリハビリをすることで、心も体も健やかに保つことができるのです。

では、高齢者にとって口腔ケアをすることには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

高齢者の口腔ケアはこんなに大切

(1)高齢者に多い「誤嚥性肺炎」を防ぐ

高齢者の死亡原因として、がん、心筋梗塞、脳卒中に続き、肺炎があげられます。
このうち約7割が、口内の細菌が誤って気管に入り発症する「誤嚥性肺炎」といわれます。
認知症などが進むと誤嚥が起こりやすく、口内に細菌が多いと、肺炎の危険性も高まることに。
しかしケアが行き届いた清潔な口内であれば、たとえ誤嚥をしても肺炎にはつながりません。

(2)ウイルスなどによる感染症を予防する

冬に流行するインフルエンザやノロウイルス。
空気が乾燥すると、ウイルスの感染力が強まるうえ、口の中では、口内に残った細菌が作り出す「プロテアーゼ」という酵素が粘膜を壊し、さらに感染しやすい状態に。
しかし口腔ケアで清潔にしておけばプロテアーゼは作られず、感染症の予防にもなるのです。

(3)むし歯・歯周病の予防

歯周病は歯茎だけの病気ではなく、高齢者では敗血症や感染性心内膜炎などの致命的な疾患につながることがあります。また、動脈硬化や、糖尿病を悪化させる要因のひとつにもなると考えられています。
歯周病を予防することは、全身の健康に役立ちます。

(4)口腔粘膜にある免疫システムを働かせる

近年、口腔粘膜そのものが独自の免疫組織であることがわかってきています。
しかし、この優れた免疫システムも、口内が不潔だと力を発揮できません。
歯間ブラシなどでしっかりケアをした高齢者は、普通にケアした人に比べ、インフルエンザにかかる率が10分の1だったという報告も。清潔な口内は、免疫力もアップさせてくれます。

(5)正しい口腔ケアはQOLを向上させる

食べることは、生きること。美味しく食べられる日々は、生きる喜びにつながります。
また、話すこと、笑うこと、よく噛むことも脳を活性化し、生き生きとした生活をサポート。
口腔ケアは、高齢者の生活の質を向上させる大きなカギでもあるのです。

口腔ケアの重要性をよく理解し、本人や介護者がケアを怠らないことで、高齢者はより健康で、生き生きとした暮らしを長く楽しめるようになります。
今後加速していく高齢化社会にともない、要介護者も増加の一途をたどるといわれている日本。
口腔ケアの大切さはますます広く認知されていくことでしょう。

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