介護職なら知っておきたい【看取りケア(ターミナルケア)】とその実態
- 2016-6-20
- 介護職のお役立ち情報
高齢者が最期を迎える場所は、9割近くが病院などの医療機関、残りの1割が自宅といわれていますが、近年は介護施設において利用者の最期を看取ることも、決してまれなことではありません。
持病を抱えていても健康であっても、高齢者にとって人生の終焉は遠い未来とはいえず、心のどこかでいつも意識しているもの。そして本人や家族が心穏やかにその日を迎えるために求められているのが、プロによる終末期の看取りケア(ターミナルケア)です。
今回は、このターミナルケアについて、介護職としてどのような心構えで関わっていけばいいのか、その内容や実態を詳しくお伝えしていきましょう。
目次
ターミナルケアとは
ターミナルは「終末期」を意味する言葉。そしてターミナルケアとは、余命がわずかである人に行う看護や介護をいいます。終末期ケア、看取りケアとも呼ばれます。
終末期の高齢者は、老衰や認知症、ガンなどの症状が進み、心身ともに弱っていますが、ターミナルケアでは基本的に延命治療は行わず、痛みや不快な症状の緩和と、心のケアが中心。
残された日々のQOLを維持し、本人らしさを失わず穏やかに人生の最期を迎えるためのサポートという位置づけになります。
いつからターミナルとするかの判断は難しい部分もありますが、ガンなどの病気では、医師がこれ以上の治療が不可能であると診断すれば、ターミナルケアが始まります。
生命に関わる病気がない場合、一般的には、寝たきりとなり食事がとれなくなった頃から、ターミナルとされることが多いようです。
ターミナルケアを行う医療施設は、介護療養型医療施設(療養病床)、病院の緩和ケア病床、緩和ケア病棟(ホスピス)など。介護施設には、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、一部の有料老人ホームなどがあります。
介護職員が心がけたいこと
高齢者の生活をサポートする介護という仕事の中で、その終末期である「看取り」に関わることは、今や自然の流れとなってきています。もちろん、決して楽しい仕事とは言えませんが、最後まで利用者の人生に寄り添い、見送ることは、相手への敬意と感謝を示す、介護職ならではの手段。
精いっぱいの看取りができるよう、これまで以上に細やかなケアを心がけたい時期です。
例えば以下のような点を意識するとよいでしょう。
●常に笑顔を忘れずに、優しい言葉使い、穏やかな態度で。
●スキンシップは積極的に。
●好きな音楽をかけたり、花を飾るなど、快適な環境づくり。
●身体の清潔を保ち、心地よく過ごせるようこまめなケアを。
●本人が家族や好きな人とともに過ごす時間を増やす。
ターミナルケアは、利用者自身の望む最後の時間をあらゆる面からプロデュースするもの。
そのためには、本人や家族の希望をしっかりと理解し、スタッフ全員で共有する必要があります。日頃から利用者やその家族とコミュニケーションをとり、終末期をも安心して委ねてもらえるよう、信頼関係を築いておくことが大切です。
ターミナルケアの3つのポイント
終末期のケアとはいえ、ターミナルケアの目的はこれまでと同様、本人が快適に心地よく過ごすことが第一。
ここでは、とくに重要となる3つのポイントについて、説明していきます。
(1)回復させるためのケアではなく、自然にまかせて
終末期にある人にとって、時間とともに状態が変化することは避けられません。その変化をネガティブにとらえるのではなく、どんな状態でも本人が楽に、気持ちよく過ごせるよう配慮するのがターミナルケアです。たとえば、発熱していても本人が望めば入浴させる、といったように、普通なら行わないようなことも、終末期ケアでは選択肢のひとつになります。そうしたケアの中で、いったん回復することも、さらに症状が進むこともあり得ますが、あくまでも自然にまかせて、変化を受け入れる姿勢が求められます。
(2)心身ともに寄り添い、痛みや不安を和らげるケアを
医療行為のできない介護職員には、利用者の苦痛を癒してあげることはできないのでしょうか? そんなことはありません。利用者の身近にいてよく知っている介護職員こそ、相手の目の動きや表情、体のこわばりといった、言葉にならない訴えを読み取り、対処することが可能なのです。どこが苦しいのか、どう痛むのかを推測し、さすったり、温めたり、姿勢を変えたりと、きめ細やかなケアを行うことで、利用者の痛みや苦しみは大幅に軽減します。さらに手を握ったり話しかけたりして、相手の心に寄り添い、不安を緩和するのも、ターミナルケアの大きな目的のひとつです。
(3)「最期まで好きなものを美味しく」を目指して
口から食事をとれなくなったとき、経管栄養や胃ろうなどの延命措置を行うかどうかは、基本的には本人の意思を尊重します。本人の意思確認が困難な場合は、家族が決定します。
しかし、食べられるうちはできる限り好きなもの、美味しいものを提供し、喜んでもらえるよう配慮するのがターミナルケアの心です。食事とはただ栄養を補給するためだけでなく、目で、舌触りで、匂いで、味で、楽しむもの。食べやすくするために形態を変えたり、香りをつけたりなど工夫し、五感を豊かに使って味わっていただくことは、本人にとっても家族にとっても、人生の最期の日々を豊かに生きた証となるでしょう。
家族への配慮もケアの一部
ターミナルケアを始めるにあたってまず必要なのが、家族への十分な説明です。医師や看護師、介護職員が家族と向き合い、利用者の現在の状態について詳しく知らせ、どのような延命措置が考えられるか、そのメリットやデメリットを理解してもらいます。
そのとき、決断を急がせる言葉は禁物。「皆さんが悩む難しい問題です、納得のいくまで考えて結論を出してください」とすぐに答えを出さなくても良いことや、結論が出てもそれに縛られず、いつでも変更可能であることを伝えます。
その後、家族の意思が固まり「自然な状態で見送りたい」と言われたら、初めてターミナルとみなし、終末期ケアのスタートとなります。
ターミナルケアは本人へのケアだけではありません。不安や戸惑いを感じている家族の気持ちに寄り添い、一緒に「よく頑張ってこられましたね」と本人の人生を顧みることができるような、温かい気遣いも大切な要素です。家族にとって後悔のない看取りができるよう、ケアの方向性を確認しながら、最期の瞬間までともに見守っていきましょう。
職員自身のケアも忘れずに
元気なころから親しく過ごし、ターミナルとなってからはさらに濃密な時間を共有してきた利用者の方が亡くなることは、介護職員にとっても辛い出来事です。まるで家族を失ったかのような寂しさを感じることでしょう。
看取りのあとは、スタッフで集まって気持ちを出し合い、思いを共有したり、必要であれば専門家のカウンセリングを受けたりなど、職員自身の心のケアも大事なことです。
「良い最期に付き添わせていただいた」と心から感謝し、次の介護へつなげていかれるよう、看取りのあとの時間をぜひ、大切に過ごしてください。
まとめ
終末期にある人が、自分自身の望む最期の瞬間を迎えるためには、家族、介護スタッフ、医療スタッフがチームを組み、本人と同じ方向を向いて進んでいくことが必要です。
とくに日頃から利用者をよく知り、その心身の変化を目の当たりにしてきた介護スタッフは、ターミナルケアには欠かせない重要な存在。
利用者が、人生の幕が下りていく大切な時期を家族や親しい人々とともに過ごし、見守られながら満足して最期を迎えることができるよう、介護職にしかできない「寄り添うケア」をいつも心にとめて介護にあたりたいものです。